月に哭く

プロローグ

 それは後世、人々が『黄金の神代』と呼ぶ美しい時代 ―― その地に住む人々は全て一切神デヴァーハより『神』の称号を与えられていたという

 その時代、大地、天宙域(てんくういき)、天地(てんち)の3つの空間は1つの形を成しており、神々は無垢の女神アディティーを中心として大地で平和に暮らしていた

 しかし、いつの頃からか ――――

 神々はアーディティア、マルト、アスラの3つの神群に分かれて領土などを巡って争うようになった
 大地は荒れ果て、川という川は氾濫し、多くの山々がその形を変えたという
 それでも尚神々は争いをやめず、戦乱の中でいくつもの季節が巡り、いくつもの神代が過ぎていった

 やがて神々の鬨の声が天地(てんち)に達したその時、天宙域(てんくういき)と天地(てんち)の間を繋いでいた天は無残にも粉々に砕け散ってしまった

 美しく頭上を飾っていた天の欠片が降り注ぐ中、呆然と立ちすくむ3神群の前に一切神が降臨し、言われた

 争いを好む野蛮な3神群の者どもよ、私はもうそなたらを我が神(こ)とは認めぬ
 好きに争い、好きに破壊し、好きに生きて行くが良い
 私はもう二度と再びこの手で天を創造するつもりは無い

 これより先、天宙域から天地への空間は様々な時空が入り混じり、天翔るものでさえ寄せ付けぬ厳しい空域となるであろう

 しかしこのままそなたらを見放すのはあまりにも憐れであり、又、そなたらをこうなるまで放っておいた私にも非はある

 ゆえに、一度だけそなたたちに機会を与えよう

 天と地、双方を愛でる神であり、この戦いに唯一異を唱え続けていた天地両神よ、そなたたちに付き従う一族のみ天地(てんち)への立ち入りを許す
 その手でもって再び天を創造してみるがよい
 一つの創造物を壊すのは易いが、逆にそれを創造し直すのがいかに難しい事であるかをそなたたちは学ばねばならぬ・・・!

 それから後、現代に至るまで、代々の天地両神一族は天宙域(てんくういき)を越えて天地(てんち)に入り、いつの日か再び天と地が重なり合う果てを夢見ながら壊れた天の欠片を一つ一つ繋ぎ合わせ、少しずつ天を創造し直している・・・ ――――