Fight C Luv

1 : 受けてたちましょう

 正直に言って、最初は軽い気持ちだった。

 遊び・・・と言ってしまうと軽率に過ぎるが、では好きだったのか?、本気だったのか?と問われたら、答えはすぐに出る。
 はっきりきっぱり、ノーだ。

 だが彼は恋人という存在に対して点の辛い俺をして(友人たちにはよく、“お前、相手にそんなあれこれ高いレヴェルの要求をしていたら、一生寂しく独り身だぞ”などと言われていた。しかし恋愛に対して妥協をする位なら、寂しい方がなんぼかマシだ)周りが影でジャニーズ系だ何だと騒いでいるのがさもありなん、と思わせる容姿であった。

 このジャニーズ系という形容詞は最近結構あちこちで耳にするが、俺はこの形容詞ほど当てにならない形容詞もないものだと思っている。
 過去にどんなものかと見に行って遠い目になってしまう場合が往々にしてあったし ―― いや、そもそもジャニーズ系、と言われるアイドルはどれもこれも統一性を感じられない気が俺はするので、それに似ていると言われても、ピンと来ないのだ。
 けれど彼 ―― 秋元直 ―― に関しては、そう言われているのが分かる気がする、とは以前から思っていた。

 顔は非常に整っているし、男特有の荒削りな所作や雰囲気が皆無で全体的なラインが柔らかく、30は超えている筈だったが彼にはどこか、少年っぽさが残っていた。
 そのゆったりとした口調もどことなく現実離れしており、彼が纏う少年っぽさがあざとく感じられなかった。

 俺も相当もてる方だが(自分で言うほどには)、そんな彼はある意味、俺以上に女性には人気があった。
 実際彼は患者からも同僚からも相当数のアプローチをされており、しかもそのスマートなあしらい方はもの凄まじいのだというのは、病院内ではかなり有名な話だった。
 しかも驚くことに彼が振った女は誰一人として彼の悪口を言わず、振られた腹いせに妙なことをしたりもせず、かと言って彼に興味を失ったという訳でもないらしいのだ。

 そう、ある程度以上にもてる人間なら分かることだと思うが、人気がある、もてるというのはいいことばかりでは決してない。
 意に沿わない返答をしたと恨まれる場合もあるし、勝手に勘違いして暴走される場合もある。
 だから医者仲間内でも、一体どんな上手いあしらい方をすればああなるのかと、度々話題になっていたのだ。

 ―― と、話がずれたが、そんな彼にアプローチされたとき、俺は心底驚いた。
 確かに彼とはよく目が合うとは思っていたが彼の視線に恋愛感情は感じられなかったし、そもそもあそこまで女性にもてる彼が同性愛者だとは夢にも思わなかった。

 だが、まぁ ―― そうと知ったら、断る理由は特になかった。
 言い忘れたが俺はバイ・セクシャルなのだ。つまり相手は女でも男でもどちらでも良く、さらに言うなら面倒の少ない男の方がどちらかというと好きだった。

 だから下世話な言い方をすれば、せっかくだからいただいておきましょうか。というか ―― 据え膳食わぬは男の恥、というか ―― まぁ、つまり、やはり、遊びの方向に針は傾いていたのだと思う。

 しかしそもそも食事に誘って来たのは彼の方からだし、食事中もかなり緊張しているように見えて内心爆笑ものだったのだが ―― いや、ホテルに入ってからだって接しているこちらが赤面したくなるような慌てっぷりに見えたのだが ―― 俺が悪趣味な風呂を出てからの彼の変貌ぶりは実に見事なものだった。

 ―― こんな場所でこんなこと言われて、その意味が分からないようなら、そんなの紳士というよりネンネってやつじゃないんですか?少なくとも俺は、そう思いますけど ――

 言ってくれるじゃないか、と俺は心から感嘆した。
 こんな台詞、中々考えつくものじゃない。
 考えついたとしても、ふつうはまともな顔をして言えるもんじゃない。

 なるほど、今までのは演技だったという訳ですか。
 いいでしょう、受けてたちましょう。

 ―― と、俺は思った。
 つまり、一種の戦闘態勢に入った訳だ。

 後にして思えば、これが全ての過ちの元となった訳だが、その時はそんな事を知るよしもない。

 だからその態勢のまま、彼を抱こうとしたのだが ―― ここで再び、俺は激しく混乱させられる事になる。
 明らかに慣れていない・・・というか、まさか初めてなんですか?と問いかけたくなるような雰囲気なのだ ―― これも・・・演技なのか?
 こんな時まで、こんな切羽詰った演技・・・?
 ・・・まさかな・・・、いや、しかし・・・・・・。

 ・・・・・・しかし・・・・・・ ―――― 。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 などなどと悩みすぎて、思わず勃起不全に陥りそうになり、何だかんだと意地悪く彼に話しかけて時間稼ぎしてしまった位だ。
 これには探りを入れて彼の反応をみてみようという意図もあったが、むろん・・・念のため。(勃起不全対策と探りの割合の比率は・・・聞かぬが花というものだ)

 ・・・そんなこんなで、影では様々な葛藤と紆余曲折が渦巻いていたが、何とか滞りなく(有り難い事に)行為は終了し ―― 彼に対して相当の興味を持った俺は、自分の連絡先を教えて、その日は彼と別れたのだった。