7 : 覗かされた深淵
自分の身体に起こりかけている変化を自覚したのと、低く偲び笑った俊輔の声が、崩壊の合図となった。
稜の心の奥底の変化を見透かしたかのように、俊輔の手つきが大胆なものへと変化する。
敏感なくびれの部分や先端の割れ目を、ねっとりと執拗に緩急つけて嬲られ、腰の奥底に快感の芽が芽生え始めるのが分かった。
何とかそれをなかったことにしようと、稜はきつく柳眉を寄せ、唇を噛む。が、そんな些細なことで快感が消える訳もない。
「 ―― っ・・・、あぁ・・・っ・・・・・・!」
すっと引かれた俊輔の手がその奥の2つのボールを弄び始め、強すぎる刺激に稜は思わず声を上げる。上がった声は明らかに、これまでのそれとは毛色が違った。
再び背後で俊輔が笑った気がして、稜の白皙の頬に血の気が上る。
「・・・や・・・・・・、やめ、てくれ・・・・・・頼む・・・からっ・・・、もう・・・・・・っ」
呻くように、稜が囁く。
途切れ途切れの、いまにも泣きそうな声だったが、対する俊輔は全く心動かされる様子もなく、今度ははっきりと声を上げて笑った。
「この状態でやめろと言われても、難しいんじゃないか」
「・・・・・・っ、い、嫌だ・・・っ、や、やめ・・・っ、やめろ・・・ ―― っ!!」
一旦俊輔の指が股間から離れていったために力の抜けかかった稜の身体が、再び激しく強張る。
戻ってきた俊輔の先走りに濡れた指が、滑るように後ろの窄まりの上を這ったのだ。
稜は激しく抵抗したが、窄まりに指のぬめりを移すように蠢いている手指とは反対側の手に鬱血するのではないかという強さで腰の上を押さえつけられ、下半身がろくに動かない。
渾身の力で抗っているというのに、悪魔のように稜を蹂躙しようとしている俊輔の右手から逃れられない。
恥辱に震えながらも必死に抗おうとする稜の虚しい努力の間にも、右手の指は明確な意思を持って窄まりの奥を暴こうとしていた。
じわじわと、しかし確実に、指先が内部に忍び込んでくる。
ざわりと、背筋に悪寒が走った。
「あ、ああああぁ・・・・・・ ―― っ、つっ・・・!」
中ほどまで指を挿入され、湧き上がる激しい違和感と吐くような嫌悪感に、稜が悲鳴を上げる。
うっすらと稜の身体に現れかけていた快感の影が消えたが、俊輔は焦る気はないようだった。
丁寧と表現しても良いほど丹念に、挿入した中指で内部を探られる。
その中、ある一点を爪の先が掠った瞬間に、稜の身体が反射的にびくりと跳ねた。稜のその反応を見て心得たとばかりに、俊輔の指がその一点を激しく責め立てる。
消えかけていた快楽の炎が瞬く間に蘇り、稜の身体を、抵抗する意思を、じりじりと焼いてゆく。
「・・・んん・・・っ、あ、はぁ・・・、っ・・・ ―― 」
突っ張らせていた稜の腕から力が抜け、がくりとその上半身がベッドに沈む。
拍子に尖った胸の突起がシーツに擦られ、普段なら特別気にもしないそんな小さな刺激すら、勝手に快楽へと変換されてゆく。止めようもなかった。
いつの間にか根元までくわえ込まされた指に、沿わせるようにもう一本、指が追加される。
鋭い痛みが稜を襲った ―― が、やめてくれと繰り返し懇願する声には、聞き間違いようもない艶が滲んでいた。
腰を押さえていた俊輔の手がゆっくりと前に回され、その手で再び昂ぶりを握りこまれ、扱かれる。
止めようもない嬌声が、稜の唇から絶え間なく零れ落ちる。
そんな稜を俊輔は無言のまま、ひたすらに追い込んでゆく。
前と後ろを同時に責め立てられ、抵抗をしようにも何を主軸にして抵抗すればいいのか。もう稜には分からなくなっていた。
「・・・も・・・・・・、た、すけ・・・・・・ ―― っ、ぁんんん・・・っ」
誰に助けを求めているのか、稜自身にも判断がつかない。
ただ何か ―― 何を求めているのか、何を探しているのかも分からないまま、縛られて感覚のなくなった稜の指先が乱れたシーツの上を彷徨う。
「一度、いけ」
この場面には余りにも不似合いすぎる平坦な声で、俊輔が命令のように言った。
と、同時に稜の体内を蹂躙していた俊輔の指が、感じる部分を強く掻く。
身構える隙など、一瞬もなかった。
「や・・・・・・っ、あ、あぁあああ・・・ ―― っ!」
他愛なく、あっけなく、稜は俊輔の手で快楽の深淵に突き落とされた。