8 : 崩れ行く東京タワー
さらりとしたシーツに欲望の飛沫を吐き出した稜は、ぐったりと全身をベッドに沈めた。
激しすぎる屈辱のあまり、頭が割れるように痛んだ。
後ろに2本も指を銜え込まされた状態でいかされてしまうなど、こんな酷い辱めはない。
怒り、悲しみ、虚しさ、憤り・・・ ―― 生きとし生けるものが持つマイナスの感情を根こそぎ集めて煮詰めたら、今のような気分になるかもしれなかった。
いっそ泣けたらいいのに、と稜は思う。
いや、達した自分から手を引いた俊輔がいなければ、泣いてしまっていたかもしれない。
しかしどんな醜態を見せた後だとしても、涙だけは見せたくなかった。
背後にいる卑劣な男に涙を見せるくらいならば、死んだ方がましだった。
―― と、そこでふいに、背中に指が這わされた。
一度達した身体は敏感になっていて、たったそれだけの刺激でも身体が震えそうになる。
「・・・もう気は済んだだろう。これ以上、俺に触るな」
俊輔の手の感覚に腰の奥が疼いたのを気取られてしまわないよう、そっけない口調を取り繕って稜は言った。
しかしそんな虚勢を張った稜の言葉を聞いた俊輔は、
「おいおい、何をすっとぼけたことを言ってるんだ、お前は」
と、言って馬鹿にしたように鼻で笑った。
「十代そこそこのガキじゃあるまいし、自分だけ良くなって終りなんて、有り得ると思うのか」
耳を疑い、反射的に身構えた稜の腰が、再度掴み上げられる。
「やめろ!何をするんだ!」
「今更な質問をするなと、さっきも言った」
金属が擦れあう音と共に俊輔は言い、更に引き寄せた稜の太ももを乱暴に割り広げた。
読みたくもない次の展開が否応もなく予測出来てしまった稜は、引き攣れたように叫ぶ、「よ、よせ、止めろ・・・ ―― !!」
「無駄な抵抗は時間と体力の無駄だ。力を抜け」
「ふざけるな、離せ・・・っ!!」
「ふざけてなんかいない。力を抜けと言っている」
「嫌だ、誰が!」
「そうか、じゃあ好きにしていろ。辛いだけだと思うけどな」
俊輔は言い放ち、稜の窄まりに押し付けた熱く濡れた雄の先端を、ゆっくりとではあるものの情け容赦なく捩じ込んでくる。
冷静な素振りと口調を崩さなかった俊輔だったが、飽くまでも表面的なものであったのだと思われるような、それは圧倒的な熱と硬さを孕んでいた。
「・・・・・・っ、や、めっ・・・・・・痛・・・・・・っ、あ、ああぁ ―― っ!!」
想像を絶するような痛みに、強く瞑った稜の目尻から涙が零れ落ちる。
最初と同様、俊輔は焦ろうとはせず、先端を埋めただけの状態のまま稜の背中に覆いかぶさってくる。
先ほどの残滓を纏ったままの骨張った俊輔の手指が、稜の身体を ―― 特に胸と下腹部の勃起や繋がっている部分を中心に、執拗にまさぐる。
同時に背中に口付けられ、首筋を通って這い上がって来た唇が耳朶を噛み、そこで俊輔はふいに稜の名を小さく囁いた。
昔 ―― 学生時代に聞き慣れた、懐かしい俊輔の、低く掠れた声。
それを聞いた刹那、稜の強張りきった身体から少しだけ力が抜けた。
そこを見逃さずに大きく一歩肉茎を押し入れて、俊輔が稜の内部を擦り上げる。
「・・・・・・ ―― あ、あぁあ・・・・・・っ!」
叫んだ稜の身体が、痙攣するように激しく震える。
むろん、痛みはあった。が、痛みと共に湧き上がったのは嫌悪感でも怒りでもなく、疼くような快感だった。
その後も好き勝手に稜の身体を蹂躙していた俊輔だったが、無用な痛みを伴うような乱暴な真似は決してしなかった。
稜が鋭く反応する場所を探り当ててそこを執拗に責めて快楽に啼かせ、刺激が強すぎて苦しくなる寸前に引く。
一旦快楽に浸った身体は、そんな責め方をされてはひとたまりもない。
先ほど達してから間もないというのに、あっという間に次の高みが迫ってくる気配を感じて稜は愕然とする。
きつく唇を噛むことで今にも流されてゆこうとする激情を押し留めようとしたが、そうはさせないとでも言うように突き上げられ ―― 次の瞬間、中ほどまで稜の中に埋められていた肉茎が勢いをつけてずるりと引き抜かれた。
そんな半端な刺激にも稜は一人、再びあっけなく高みに押し上げられてしまう。そんな稜の戒めを解いた俊輔の腕が、無造作に稜の身体をひっくり返してのしかかってくる。
痺れきって力の入らない両腕を突っ張るようにして抵抗してみたがそんなものが効力を発するはずもなく、達した余韻が収まりきっていない潤んだ稜の体内に、俊輔が今度は一気に根元まで、己の猛りを突き入れてきた。
「・・・あ、あぁああっ ――――――!!」
湧き上がる限界を越える痛みと、狂うような快楽。
それらが絡まりあうようにして、稜の身体と感情を支配する。
激しすぎるそのせめぎ合いに恐怖を覚え、ずり上がるように俊輔の律動から逃れようとする稜の身体を、伸びてきた俊輔の手が捕らえて荒々しく引き戻す。
みっしりと限界まで埋め込まれた雄で奥底を抉るように突き上げられ、耐え切れずに悶える稜へ、容赦のない抽挿が襲い掛かる。
内部の感じる部分を狙い済まして執拗に突き上げられ、下腹の間で刺激を与えられ続けられて昂ぶりきった稜の淫茎の先から、堪えきれずに白濁があふれ出す。
感じている快感の強さを表すように、射精は1度では収まらなかったが、それでも俊輔の律動は止む気配はない。
逃げられず、声すら上げられなくなった稜の身体が、無言のまま激しく反り返った。
その拍子に稜の右肩から後頭部にかけてが、ベッドの端から床に向かって、滑るように落ちかかる。
激しい律動をただひたすらに受け止めることしか出来ない稜の見開かれた瞳に、開け放たれた窓から見える東京タワーが逆向きに映り込む。
オレンジ色に光りながら天を突くその塔が、まるで倒壊する寸前であるかのように激しく揺れていた。
何か、叫んだかもしれない ―― 分からない。
もう何が何だか、自分の身体のどこをどうされているのかすら、稜には判断がつかない。
ただ最後、稜の中に埋め込まれた俊輔の灼熱がずくりと膨れ上がり、叩きつけるような勢いで劣情が注ぎ込まれる感覚だけが、妙にはっきりと感じられた。
急速に暗転してゆく視界の中、赤みがかった東京タワーの姿がどろどろと崩れ去ってゆくのを、見た気がした・・・ ―― 。