Night Tripper

7 : 空をかく指

 稜は一切抵抗の素振りを見せなかったが、その瞬間、稜の肩から上半身にかけてを押さえる男たちの手に強い力が籠もった。

 腕へと続く血管の全てを掴み潰されるような圧迫感があり、指先が痺れてゆく。
 同時に焦熱を纏わせた凶器の切っ先に、じわじわと稜の身体が切り拓かれる。

 抵抗もせず、悲鳴も上げず、ただ黙って目を伏せた稜を見下ろした金山は、稜を押さえる男たちに向かって稜の身体を起こせと命じた。

 細かい指示は出されなかったが、彼らは金山が一を言っただけで十を理解するようだった。
 稜を左右から押さえ込んでいた2人の男のうち、右側の髪の長い男が稜の身体を小さく抱えあげ、そうして作られた隙間にもう一人の眼鏡をかけた男が折った膝を割り込ませる。

「下を見てみるといい」

 身体を引き起こされた稜に、金山は言った。
 金山の声に稜が閉じていた目を開け、金山はその視線を促すように、視線を下に落とす。
 後ろの眼鏡の男にさりげなく後頭部を押され、稜も下に視線をやった。

 金山は浅く埋め込んでいた自身を軽く引き出すようにしてから、再度時間をかけて稜を蹂躙してゆく。
 何本もの血管が浮いたぬめぬめと光る赤黒い肉茎がゆっくりと自分の中に消えてゆくのを、稜はどこまでも無感動に眺めてから、顔を上げて金山を見る。

 稜の双眸には、冷えきった鋼のような、硬質な冷静さがあった。
 それを見た金山はすっと目を眇め、鼻に抜けるような短い笑い声をあげた。

「・・・いいね ―― 思った通り、実に素晴らしいよ君は。その仮面を取らざるを得ない瞬間を、是非見てみたい ―― いや、見させてもらう。絶対に」

 金山は言い、言い終えた瞬間、稜の身体を男の足の上から引きずり下ろし、自らの手でベッドに沈める。
 そしてさらに奥深くへと、稜の身体を穿ってゆく。

 時間をかけて味わおうとする意志は感じられたが、そこには先ほどまでとは明らかに違う、切羽詰まったような勢いがあった。

 一旦奥まで稜を征服してから、金山は間をおかずに小さな抜き差しを繰り返す。
 そうしながら、金山が稜の表情の小さな揺れすら見逃すまいという風に稜の様子を伺っているのを、稜は痛いほどに意識していた。

「 ―― どんな具合ですか、金山さん」

 もう稜を押さえている必要はないと判断したのだろう、ベッドを降りていた男の一人 ―― 眼鏡の男が訊いた。

「・・・いい」
 短く金山は答え、掴んだ稜の腰を左右に揺らした。
「実によく仕込まれている・・・、敵ながら、俊輔を褒めてやりたいよ ―― なぁ、どうだ、“稜”」

 金山は唐突に稜を呼び捨て、掴んだ稜の腰を軽く引き上げて自身を更に一歩、稜の最奥へと埋め込んだ。
 そして到達したその場所で、肉茎の先端を複雑な図形を描くように蠢かせた。

「俊輔とは、ずいぶん違うだろう?つい比べてしまうんじゃないのか、色々と ―― なぁ、私と俊輔のでは、大きさはどっちが大きい?・・・長さは?どっちが長い?・・・俊輔はこんな部分までこうして ―― と言って金山は圧倒的なまでに張り出したカリで稜の内部を激しく擦りあげた ―― 刺激してくれたか?・・・かたちは? ―― なぁ、答えてくれ、どこが、どんな風に違う・・・?」

 もちろん稜は答えなかったが、金山の問いかけを聞いた2人の男が笑った。

「かなりいいみたいですねぇ ―― 後でちょっと、試させてくださいよ」、と眼鏡が言う。
「金山さん、確か相当久々なんですもんね、2、3ヶ月ぶりでしたっけ?」、と長髪が言う。
「・・・そんなもんじゃない、半年以上だ」
 と、金山は稜を休みなく揺さぶりながら答えた。
「それもあるし、これが俊輔のものだという理由もある ―― だがそれだけじゃあない・・・、無反応だが中身(なか)が凄いんだよ、堪えられない・・・、後で、お前たちも試してみればいい。私が飽きた後で、だけどな」

 いつになるんですか、それ?それまでそいつ、保つんですかね?と言い合って、男たちが笑った。
 それは酷く陰惨な、笑い声だった。

「そう ―― 、そうなんだよ、稜、実はこんなことをするのは、半年以上ぶり、なんだ」

 突きつける動きは止めないまま、金山は大切な秘密を打ち明けるような囁き声で言った。
 その声は今や、はっきりとした快感に掠れていた。

 息を乱し始めた金山が、本格的に稜を突き上げ始める。
 体内に埋め込まれた凶器がぐっと嵩と熱を増し、その動きが踊り狂うような激しいものになってゆく。
 低く淫らな水音が、止まることなく豪奢な室内の空間を満たしてゆく。

 そうして無抵抗の稜に陵辱の限りを尽くしながら、金山は続ける。

「 ―― この計画がほぼうまくゆくだろうという確信がもてた頃から、誰とも寝なかった ―― マスターベーションすら、一度もしていない。君との行為から生じるものを、出来るだけ、純粋に・・・、味わいたかったしね・・・、・・・」

 金山と稜の行為を間近に眺めがら煙草を吸っていた男たちが、それを聞いて再び、派手な声を上げて笑った。

「凄く濃そうだな」、と長髪が笑いながら言った。
「糸を引くくらい」、と眼鏡も笑いながら言った。

 男たちの言葉を聞いて、金山も笑った。

 笑った振動が、淫らに深く繋がった部分から、直接稜の身体に響いてくる。
 埋め込まれた淫茎がびくびくと震え、限界が近いことを訴えだすのが分かった。

 それでも死んだように反応しない稜を壊れるほどに突き上げながら、金山が妙に甘い仕草で何度も稜の頬や首筋を、せわしない勢いで揉みしだく。

「稜 ―― ああ、稜、これでもう君は永遠に私のものだ ―― もう離さない・・・、ああ ―― もう駄目だ、出すぞ ―― ほら、出るぞ、稜、全部 ―― 何もかも全部、飲み込めよ・・・、・・・っ!」

 そう言い放った次の瞬間、金山がうなるように低く呻き、一段と深く穿たれた肉茎の先から叩きつけるように精液が放たれる。

 久々の行為なのだという金山の言葉を裏付けるように、射精は長い間、途切れることなく続いた。
 熱い液体が繋ぎ目から溢れだして肌を伝い、シーツをぐっしょりと濡らしてもなお、射精は終わらない。

 金山が達したのと同時に、マットレス上に投げ出された稜の指が小さく空をかいたが ―― 稜が見せた反応は唯一それだけで、少し後で金山が口付けても、稜がそれ以上の反応を示すことはなかった。