== DEATH-tiny-LabYrinTH 11 ==

「俺は、怒ってなんかいない」

 複雑な腰の動きは止めないまま、稜は言葉の一言一言を区切るようにゆっくりと、噛みしめるような言い方で言った。  口にはしない意図が滲む稜の口調に、俊輔が笑う。

「それじゃあ何か、全部俺の気のせい、勘違いだっていうのか?馬鹿にするんじゃない。何年お前と一緒にいると思ってるんだ」
「・・・さぁね、もう数えてないから分からないな ―― でも俺は怒ってない。怒ってはいない ―― ただおまえが心底、憎いだけだ」

 低く稜が呟き、俊輔は黙って稜を見上げる。
 その視線を受け止めながら、小さな声で稜は続ける。

「これまでのどんなときよりも、今、俺はおまえが憎いよ、俺は・・・ ―――― 」
「・・・ふぅん、・・・・・・」

 俊輔が喉奥だけで答えた、その無感動な調子に今度は稜が嘲るような声を上げて笑い、
「随分と自信がありそうだな ―― そんなこと、あるわけないって?」
 と、からかうように訊いた。
 俊輔は小さく肩を竦めてから首を横に振り、
「いいや」
 と、答えた。
「じゃあなに、・・・ ―― 」
「別になにってこともないけどな・・・、ただこんなことをされながら憎いとか告白されても、どんな反応をすればいいんだか、さっぱり見当もつかない」

 そう言った俊輔が、稜の耳のあたりに留まらせていたままだった左手を、稜の肩に移した。
 それは本当に何気ない、特に乱暴でもなんでもない所作であった。
 普段であれば触られたとはっきりと意識すらしない程度の、さりげない動きだ。
 が、俊輔の手にはずぅんとした、どこか奇妙な重さがかかっており ―― 少なくとも稜にはそう感じられ ―― 反射的に稜の身体が小さく揺らめいた。
 その拍子に稜の中にいる俊輔の先端が思いがけずに感じる部分を抉るようになったのだろう、稜がそこで初めて、表情を乱した。

「・・・っ、あぁ、 ―― ん、っ・・・」

 稜のその、甘ったるく余韻を引くようなか細い声が、合図だった。

 無言で素早く身体を起こした俊輔が、有無を言わせないやり方で稜の腰と肩を掴み、その身体を仰向けにベッドに沈める。
 唐突に形勢を逆転された稜が抗議と驚きの声を上げる前に、俊輔の唇が言葉ごと稜の唇を奪う。
 激しく唇を奪いながら、微かに触れただけで反応を示した先ほどの場所に先端を押しつけ、激しく擦りあげる。

「・・・ぁあっ、ん、んん ―― っ!」

 急激に跳ね上がった快感の激しさに稜が喉を反らして悲鳴を上げようとしたのを引き戻して乱暴に口づけ、俊輔は上がりかけた悲鳴を稜の体内に圧縮するようにして押し戻す。
 きつく抱きしめられて下から突き上げられ、揺さぶられながら叩きつけられる俊輔の焦熱と、強引に封じ込められた呼吸と悲鳴。
 それらがぶつかり合い、絡み合い、解け合った刹那、稜は自分の身体が燃えるような熱を帯びてゆくのを感じた。
 だがそれが押し倒され、押し倒した2人のうちのどちらの身体から生じる熱なのか、稜には判断がつかない。
 肌が触れ合っている部分から、溶け果ててゆくような感覚があった。

 限界の、その果てまで俊輔が稜に入り込んでゆく。
 沸き上がる、快楽を凌駕する痛み ―― だがその引き裂かれるような激痛は、それと認識する前にすべて快楽へと誤変換されてゆく。
 その間にも激しい口づけは続いており、痛みと快楽の狭間で稜は喘いだ。
 しかしその喘ぎすら逃さないとでも言うように、俊輔が稜の舌を自らのそれで絡めとってゆく。
 殆ど突き飛ばすような勢いで稜は俊輔の胸を押したが、稜に覆い被さっている俊輔の身体はびくともせず、口づけも終わらない。
 むろんその間、頂点を極める直前のような快感の波も、引くことはなかった。

 酸素が足りない ―― サンソガタリナイ。
 意識が霞み、微かな耳鳴りと頭痛がしてくる。

 セックスという行為が死と隣り合わせのものになり得るなどと、俊輔に再会してこんな関係にならなければきっと一生知らなかった、と稜は混濁しきった脳裏の裏面で思う。
 俊輔と抱き合っていると稜は時々、突きつけられる快楽の度合いが凄まじすぎて、もう死にたいと願えばいいのか、いっそ殺してくれと懇願すればいいのか、分からなくなるのだ。
 恐らくそれは、両方がそれぞれに正解なのだろう ―― 今、この状況下では、特に・・・ ―――― 。

 嵐のような快楽にもみくちゃにされている最中、途切れ途切れにそう考えたところで堪らなくなり、稜は伸ばした両腕を俊輔の身体に回す。
 背中に回された腕にしがみつくような力が込められたところで、俊輔はようやく稜の唇を解放した。が、その代わりだとでも言うように稜の上半身を引き上げて自らの方へと引き寄せる。

「あっ、あ ―― あぁああああっ!」

 もうこれ以上はないと確信すらしていた快楽の天井が音もなく崩れ、その衝撃に稜が叫ぶ。
 きつく苦しげに閉じられた稜の目尻から、透明な滴がこぼれ落ちてゆく。
 その軌跡を正確に唇で辿っていった俊輔が鎖骨の窪みに舌を這わせるようにしてそこに留まっていた涙を舌で掬いとり、最後、たどり着いた肩に歯をたてる。
 電流を流されたように、稜の身体が震えた。

「 ―― っ、あぁあああ、あぁ・・・!」

 耐えきれずに達した稜の内部が、激しく、複雑に収縮する。
 同時に沸き上がった吐き気がするほどの快楽に、俊輔も抗わなかった。
 体内に煮えたぎるような劣情の奔流を受け止めて強ばった稜の身体は数瞬後、くたくたと骨が抜けたようにベッドに沈み込んでゆこうとする。
 しかし俊輔はそれを強引に引き留めて吐き出された稜の白濁を指で掬い取り、自身を咥え込んだままの場所から双球までの他のどの場所よりも敏感な部分を嬲ってゆく。
 達したばかりの敏感な部分を淫らに弄られ、これ以上はとても耐えきれないと言わんばかりに稜が逃げようとする。
 もちろん、俊輔は稜を逃がしはしなかった。

「・・・っ、俊輔、俊輔、俊輔・・・! ―― も、たのむから、やめ・・・っ、あ、あァあっ!」

 吐き出した自らの白濁を潤滑剤のようにして抽挿が再開され、惑乱した稜が悲鳴と共に再び快楽の坩堝に落ちてゆく。

「憎みたいなら、憎めばいい ―― お前から与えられるものなら、憎しみだろうが愛情だろうが、俺にとっては同じことだ、稜」

 稜が落ちてゆく深淵の底にたゆたう闇に染め抜かれたような声で、俊輔が言った。