第12話
龍二郎の指に深く体内を探られ、抉られる度に、怜は自分の中のなにものか ―― 怜自身もその存在を知らなかった、しかし何かとても大事なもの、普通は一生、決して、他人には見せも触らせもしないなにものかが、龍二郎の手指によって暴かれてゆくような気がした。
恐ろしい気がした。
心許ない気がした。
身体のたった一部を他人に預けているというだけで、人間はこんなにも弱々しい気持ちになってしまうものなのだろうか。
いてもたってもいられない気持ちが抑えられず、こんな感覚にはもういくらも耐えていられない、と怜が思った瞬間、体内から龍二郎の指が去ってゆく。
すぐに再び挿し込まれるのだろうと、朦朧とした思考の片隅で怜は思ったが、一瞬の間をおいてそこに押しつけられたのは、指ではなかった。
「 ―― 力を抜け」、と龍二郎が低く命令する。
押しつけられた圧倒的な熱と質量にびくりと身体を震わせた怜だったが、それでも命じられるままに身体の強ばりを解こうとする。
だが身体のどこからどうやって力を抜いてゆけば良いのか、今の怜には分からなかった。
普段何気なくしているはずのことを一体どうやっていたのか、さっぱり分からない。
力を抜くどころかシーツを掴む手指に更なる力が籠もり、その関節に骨の形が白く浮き上がる。
荒い呼吸を繰り返しながら、弱々しく首を横に振る怜を見下ろした龍二郎が、上半身を折って怜の背中、背骨の脇に口付ける。
そしてそのまま窪みを上へと辿っていった龍二郎の唇が、到達した首筋をきつく吸い上げた。
同時に怜の上半身が引き上げられ、その胸と怜の背中がひたりと重なり合う。
触れ合った肌と肌が溶けあってゆくような甘美な感覚に、張りつめていた怜の気が乱れた。
その隙をつくように龍二郎が一歩、怜の中に踏み込む。
「あ、ぁあああっ!」
浅く貫かれた怜が、悲鳴を上げる。
痛みはなかったが、凄まじいばかりの違和感があった。
それはこれまで指で内部を慣らされていた時に感じていたものとは、比べものにならない程に大きかった。
反射的に逃れようと引き気味になった怜の腰を龍二郎の手が強く押さえ、ゆっくりとだが着実に、怜の内部を切り拓いてゆく。
征服が深まれば深まるだけ、身体が燃えるように熱くなってゆく。
本当に火を放たれているようにすら思え、怜は怖くなる。
セックスがこんなに倒錯的で刹那的な行為であったことは、今までに一度もなかった。
それほど経験が豊富であるとは言わない、けれど・・・ ――――
「・・・は、ぁあ ―― ・・・」
再び肌が大きく触れ合い、最奥まで征服されたことが分かった。
震えるような呼吸を繰り返す怜の背を、龍二郎の大きな手のひらが這ってゆく。
と、ふいに征服を浅くした龍二郎が、先ほど指で散々弄んだ場所を張り出したカリで小さく、しかし強く擦り上げた。
「ああっ!ぁあ、んっ・・・」
飛び上がるように鋭い反応を示した怜が上げた声は、これまでの悲鳴めいた声とは明らかに違い、うっすらとだが官能の色を纏っていた。
満足げに笑った龍二郎が、じわじわと集中してそこを攻める。
強ばるばかりだった怜の身体が、唐突に、突き崩されるように、甘く熱く、溶け始める。
その変化はまるで、砂の城を波が浸食するのを見るかのようだった。
きつく、食いちぎらんばかりに龍二郎を締め付ける入り口の輪と、深く入り込んだ龍二郎自身を柔らかく包み込む内部。
それらはとても、同じ人間が持つものであるとは思えないほどのギャップだった。
「ぁ、ふ、ぁあ・・・あ ―― ぁんん・・・っ!」
龍二郎の的確で執拗な攻めに堪えきれず、怜が達しかける。
その瞬間、怜の体内が纏う熱は、奥深くまで埋め込まれた龍二郎の肉茎を溶かそうとするかのように一気に高まった。
そして龍二郎を包み込む内壁はその柔らかさを更に深め、きつく締め付けられている感覚はあるのにはっきりとした自覚が出来ないという、どうにも掴みどころのない、訳の分からない感覚を龍二郎に与える。
「・・・凄ぇな、なんだこれ、堪んねぇ・・・」
怜が達するギリギリ直前で身体を引いた龍二郎が、思わず、という風に呟く。
そして怜の快感の波が多少凪いだのを確認してから、再度その内部を自身で注意深く埋めてゆく。
「・・・っ、ァあ、ん、は、ぁあ・・・!」
先ほど同様、怜の感じる部分を執拗に攻め、達する直前に引く ―― 龍二郎はその行為を、飽きることなく繰り返す。
龍二郎としては単純に怜が達する直前の反応を堪能しているだけの行為であり、そこには怜を焦らしてやろうというような意図は ―― 多少はあったかもしれないが ―― それほどはなかった。
しかしそこに明確な意図があろうがなかろうが、そんな攻め方をされる怜は堪ったものではない。
まさに生殺しというのに等しい行為を繰り返され、もうまともに話すことすら出来ない怜の、閉じられない唇から唾液の糸が引き、高いところで留まったままの肉茎から先走りの液体が絶えることなくこぼれ落ちてゆく。
「っく、もぉ、やめ ―― りゅ、じろうさ・・・、も、た、すけ・・・っ・・・、ぁあ・・・」
涙ながらに呻いた怜の腕から力が抜け、その身体がくたくたとシーツに沈んでゆく。
その流れに沿うように怜から身体を離した龍二郎が、怜の身体を仰向けにして荒々しく口付ける。
怜はもうそれに、応えることすら出来ない。
思うままに唇を貪りながら龍二郎は怜の両足を抱え上げ、溶けきった怜の後孔を一気に貫き、奥底まで征服したのと同時に激しく自身を突きつける。
今までの行為とは真逆のような激しい突き上げと、それと同じ激しさを纏わせて続く口付け ―― 声を上げることを許されない怜の身体を流れる血液が、ぐつぐつと音を立てて沸騰してゆく。
「・・・っ、ぁアあ!っ、は ―― あ、ぁああっ!」
必死で顔を逸らして龍二郎の口付けから逃れた怜が、鋭く喘いだ。
龍二郎はそれを咎めることはしなかったが、お仕置きとばかりに更に激しい所作で怜の体内を擦り上げ、腹部を撫でるように下りてきた手が怜の猛りを突き上げと同じリズムで扱く。
「あ・あ、んぁあっ、あぁああっ・・・!!」
怜の身体が大きく仰け反り、同時に昂ぶりきった先端から白濁が幾度も吐き出される。
これまでのどの瞬間よりも熱く溶けた怜の内部の誘いに逆らわず、龍二郎もそこに煮えたぎった欲望の迸りを叩きつけた。